【測定】幾何公差の測定方法

幾何公差は、設計図面上で部品の形状、姿勢、位置、振れなどの幾何学的特性の許容範囲を規定するものであり、その測定は製品の品質を保証する上で極めて重要です。幾何公差の種類によって適切な測定方法と測定機が異なり、高精度な測定技術が求められます。本稿では、主要な幾何公差の種類ごとに、その測定方法を詳しく解説します。

1. 形状の公差の測定方法

形状の公差は、単一の幾何学的要素の形状のばらつきを規制します。

1.1. 真直度(Straightness)

真直度は、線状の幾何学的要素が、指定された長さにおいて、理想的な直線からどれだけ逸脱しているかを測定します。

  • 触針式測定: 測定物を安定した定盤上に固定し、真直度測定器の触針を測定面に沿って慎重に移動させます。この移動に伴う触針の上下方向の変位を測定器が記録します。記録された変位の最大値と最小値の差が、その測定範囲における真直度となります。
  • レーザー変位計: 非接触で真直度を測定する方法です。レーザー光源から測定面にレーザー光を照射し、その反射光の位置の変化を高精度なセンサーで検出します。測定面の微小な変位を連続的に捉えることができるため、高速かつ詳細な真直度評価が可能です。

1.2. 平面度(Flatness)

平面度は、平面状の幾何学的要素が、指定された領域において、理想的な平面からどれだけ逸脱しているかを測定します。

  • 三点支持法: 測定物を3つの支持点で水平に保持し、ダイヤルゲージなどの高さ測定器を測定面上をくまなく移動させます。測定器が示す高さの変動を記録し、その最大値と最小値の差が平面度となります。3つの支持点は、測定面が安定するように適切に配置する必要があります。
  • 三次元測定機(CMM): 測定対象の平面上の多数の点を、接触式のプローブまたは非接触式のセンサーを用いて高精度に測定し、その3次元座標データを取得します。取得した座標データを解析ソフトウェアで処理することで、理想的な平面からのずれの程度を評価し、平面度を算出します。

1.3. 真円度(Circularity / Roundness)

真円度は、円または円筒の断面が、理想的な円からどれだけ逸脱しているかを測定します。

  • 真円度測定機: 専用の真円度測定機を使用します。測定物を回転テーブルに固定し、触針または非接触センサーを測定物の円周上に接触させ、回転中の半径の変化を連続的に測定します。測定データは極座標形式で記録され、解析ソフトウェアによって理想的な円からのずれ(最大半径と最小半径の差の半分など)が真円度として評価されます。

1.4. 円筒度(Cylindricity)

円筒度は、円筒面が、理想的な円筒からどれだけ逸脱しているかを測定します。

  • 円筒度測定機: 真円度測定と同様に、専用の円筒度測定機を使用します。測定物を回転させながら、触針または非接触センサーを円筒面に接触させ、軸方向にもセンサーを移動させながら円筒面全体の形状を測定します。測定された3次元データから、理想的な円筒とのずれの最大値を解析ソフトウェアが算出します。
  • 三次元測定機(CMM): 円筒面上の多数の点を測定し、その3次元座標データを解析することで、円筒度を評価します。理想的な円筒を最小二乗法などで近似し、測定点群との距離の最大値を円筒度とします。

2. 姿勢の公差の測定方法

姿勢の公差は、2つ以上の幾何学的要素間の角度関係や平行関係、垂直関係のばらつきを規制します。測定にはデータムとなる基準面や軸線が必要となります。

2.1. 平行度(Parallelism)

平行度は、ある幾何学的要素が、データムとなる別の幾何学的要素に対して、指定された距離で平行であるべき範囲を測定します。

  • ダイヤルゲージと定盤: データム面を精密な定盤に密着させ、測定対象面に対してダイヤルゲージを一定方向に移動させながら、高さの変動を測定します。この変動の最大値と最小値の差が、データム面に対する測定対象面の平行度を示します。
  • 三次元測定機(CMM): データムとなる面と測定対象面のそれぞれ複数の点を測定し、それぞれの面の法線ベクトルを算出します。これらの法線ベクトルのずれの角度や、面間の距離のばらつきを解析することで、平行度を評価します。

2.2. 直角度(Perpendicularity)

直角度は、ある幾何学的要素が、データムとなる別の幾何学的要素に対して、指定された角度(通常は90度)で垂直であるべき範囲を測定します。

  • 直角定規とダイヤルゲージ: データム面を基準として、精密な直角定規を立てかけます。測定対象面に対してダイヤルゲージを直角定規に沿って移動させ、面のずれを測定します。
  • 三次元測定機(CMM): データムとなる面と測定対象面のそれぞれの複数の点を測定し、それぞれの面の法線ベクトルを算出します。これらの法線ベクトルのなす角度を解析することで、直角度を評価します。理想的な90度からのずれの最大値が直角度となります。

2.3. 傾斜度(Angularity)

傾斜度は、ある幾何学的要素が、データムとなる別の幾何学的要素に対して、指定された角度で傾いているべき範囲を測定します。

  • サインバーとダイヤルゲージ: データム面を基準として、サインバーを用いて特定の角度の基準面を設定します。測定対象面に対してダイヤルゲージをサインバーに沿って移動させ、面のずれを測定します。サインバーの角度設定の精度が測定結果に影響するため、注意が必要です。
  • 三次元測定機(CMM): データムとなる面と測定対象面のそれぞれの複数の点を測定し、それぞれの面の角度を算出します。指定された角度からのずれの最大値が傾斜度となります。

3. 位置の公差の測定方法

位置の公差は、点の中心、軸線、または平面の中心面などの幾何学的要素の、データムに対する正確な位置からのばらつきを規制します。

3.1. 位置度(Position)

位置度は、穴、ピンなどのフィーチャーの中心軸線または中心面が、データムによって定義された理論的な正確な位置からどれだけ離れてよいかを測定します。

  • 三次元測定機(CMM): 穴またはピンの複数の点を測定し、その中心軸線または中心面を数学的に算出します。次に、設計図面上のデータムに基づいて定義された理論的な正確な位置と比較し、そのずれの大きさを評価します。位置度は通常、直径で示される円または円筒の公差域で評価されます。
  • ゲージによる測定: 最大実体公差方式(MMC)が適用されている場合、最大実体サイズのゲージピンを穴に挿入し、ゲージピンが抵抗なく設計された位置に挿入できるかどうかで合否を判定する方法があります。これは、機能的な嵌め合いを確認する簡便な方法です。

3.2. 同軸度(Concentricity / Coaxiality)

同軸度は、2つ以上の円筒または円の軸線が、共通のデータム軸線に対してどれだけ同軸であるべきかを測定します。

  • 真円度・円筒度測定機: データムとなる軸線を持つ部品を精密に回転させ、測定対象となる軸線を持つ部分を触針または非接触センサーで測定します。回転中の測定軸線のデータム軸線からの振れの大きさを評価します。
  • 三次元測定機(CMM): データムとなる軸線と測定対象となる軸線のそれぞれの複数の点を測定し、それぞれの軸線を数学的に算出します。これらの軸線間のずれの最大距離が同軸度となります。

3.3. 対称度(Symmetry)

対称度は、部品のフィーチャー(例えば、ノッチやスロット)の中心面が、データムの中心面に対してどれだけ対称であるべきかを測定します。

  • 三次元測定機(CMM): 測定対象のフィーチャーの両側の点を測定し、その中心面を数学的に算出します。同様に、データムとなるフィーチャーの中心面も算出し、これら二つの中心面のずれの大きさを評価します。対称度は、通常、二つの平行な平面で定義される公差域で評価されます。

4. 振れの公差の測定方法

振れの公差は、部品をデータム軸またはデータム点周りに回転させたときに、指定された表面がどれだけ変動してよいかを規定します。

4.1. 円周振れ(Circular Runout)

円周振れは、部品を固定された軸を中心に回転させたときに、測定面上の指示器の読み取り値の変動幅が、指定された円周上のどの位置でも公差値を超えてはならないことを測定します。

  • 振れ測定器: データム軸を精密な回転軸に合わせて部品を固定し、測定面にダイヤルゲージまたは変位センサーの触針を接触させます。部品を1回転させたときの指示器の最大読み取り値と最小読み取り値の差が、その円周位置における円周振れとなります。複数の円周位置で測定を行い、すべての位置で公差範囲内であることを確認します。

4.2. 全振れ(Total Runout)

全振れは、部品を固定された軸を中心に回転させたときに、測定面全体の指示器の読み取り値の変動幅が、公差値を超えてはならないことを測定します。部品のすべての円周要素および軸方向の要素に同時に適用されます。

  • 振れ測定器: データム軸を精密な回転軸に合わせて部品を固定し、測定面にダイヤルゲージまたは変位センサーの触針を接触させます。部品を回転させながら、触針を測定面の軸方向に沿って移動させ、測定面全体の指示器の最大読み取り値と最小読み取り値の差が全振れとなります。

まとめ

幾何公差の測定は、製品の品質を確保するために不可欠なプロセスです。真直度、平面度、真円度、円筒度といった形状の公差から、平行度、直角度、傾斜度といった姿勢の公差、位置度、同軸度、対称度といった位置の公差、そして円周振れ、全振れといった振れの公差まで、それぞれの種類に応じて適切な測定方法と測定機を選択する必要があります。三次元測定機は、複雑な形状や複数の幾何学的特性を同時に測定できる強力なツールですが、汎用的な測定器や専用の測定機も、それぞれの特性に応じて重要な役割を果たします。幾何公差を正しく理解し、適切な測定方法を用いることで、設計意図に合致した高品質な製品の製造と品質管理が実現可能となります。

  • 生技マン

    新卒で金型設計者としてキャリアをスタートし、現在は生産技術エンジニアとして働いています。現場のデータを丁寧に拾い上げ、データに基づいた分析を行い、効率化と品質向上を目指した改善に取り組んでいます。 これまでの設計者としての経験をフル活用しながら、現場との連携を大切にし、具体的かつ実用的なソリューションを提案することに情熱を持っています。また、生産技術の分野での人材不足を解消するため、その魅力を発信する活動にも力を入れています。 生産技術の力で未来の製造業を支えることを目指し、日々挑戦を続けています!

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